乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

古沢由紀子『大学サバイバル』

出版社は異なるが、すでに採り上げた『潰れる大学、潰れない大学』*1の姉妹書と言ってよいだろう。公刊時期はわずか5ヶ月違い(本書のほうが早い)で、共著と単著の違いこそあれ、同じ読売新聞記者の筆によるものだ。同一新聞で取材時期も近いこともあり、内容上の重複が多少見られるが、具体的な改革案の提示(第10章)にまで踏み込めたのは単著だからだろう。

2001年6月の政府の経済財政諮問会議で遠山文科相が表明した「遠山プラン」(第5章)の衝撃がいかに大きなものだったのか、2冊を併せ読むとよく理解できる。続発する入試ミスの背景にある構造に迫った第4章には多くを考えさせられた。著書の力点は「大学という組織そのものの抱える問題――ずさんさ、硬直性、無責任体質」(pp.99-100)の指摘にあるようだが、大学教員を生業とする者としては、一部の責任感の高い教員に過剰な負担が恒常的に押し付けられている忌々しき現実のほうを強調しておきたい。大学も教員も大競争時代に突入している今日、「評価の対象となりにくいその種の負担からはできるだけ逃れ(or手を抜き)、研究業績を増やし、もっと条件のよい大学へ移るほうが得策だ」と考えてその通りに行動する教員がいるとしても、それは(僕としては認めたくないが)一定の合理性を有している。大学も「サービス産業」の自覚を(p.78)という謳い文句だけでは、その合理性に太刀打ちできそうにない。この点に日本の大学の危機の本質が隠されているような気がしてならない。

大学サバイバル ―再生への選択 (集英社新書)

大学サバイバル ―再生への選択 (集英社新書)

評価:★★★☆☆