乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

東郷正延『ロシア語のすすめ』

中澤英彦『はじめてのロシア語』 *1の旧バージョンと言えばよいだろうか。同じ講談社現代新書のラインアップ中の一冊である。amazon.co.jpには肯定的な評価が一つ載せられているが、僕にとって1966年初版の本書はさすがに古すぎた。旧ソ連時代の話題が含まれているからではない。英語や中国語といった主要言語の解説の近年の充実に照らすならば、本書の文法や単語の説明はあまりにも不親切だからだ。新書だから網羅的であるのは無理な話だが、それでも接頭辞・接尾辞・語根に関する説明を欠くのはどうかと思う。これでは単語が頭に残らない。ロシア語は単語の成り立ちがわからないとスムーズに発音できない言語である。動詞の完了体と不完了体との対応関係も見えにくくなる。文法解説なしの「人生語録」を原文付きで載せるスペースの余裕があるのなら、他に充実させるべき項目があったように思う。

マイナー言語の宿命と言ってしまえばそれまでだが、学習者のニーズにマッチした参考書のレパートリーがロシア語はあまりにも貧弱だ。特に初級から中級へとつなぐ参考書が。この段階では語彙の増加が上達の鍵を握るのだ。今年度秋学期にロシア語の外書講読を担当することになっているが、「とにかく暗記せよ!」は最終手段として取っておきたい。できるだけ論理的な解説を心がけたい。授業のタネ本探しは続く・・・。

ロシア語のすすめ (講談社現代新書 95)

ロシア語のすすめ (講談社現代新書 95)

評価:★★☆☆☆