乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

谷岡一郎『データはウソをつく』

札幌出張から帰る間際に札幌駅の書店で衝動買い。新千歳空港のロビーと空の上で一気に読み通す。

本書は「ちくまプリマー新書」の一冊で、社会調査の考え方と具体的方法の基本を平易に解説したものだが、それにとどまらず、社会科学方法論・科学哲学への入門書でもあるし、著者流のすぐれた学問論でもある。「帰納と演繹」「相関と因果」の違いを説いた件は素晴らしいできばえである。

マスコミは売れる見出しを作るためには魂でも売る。彼らが垂れ流す「事実」を鵜呑みにしてはいけない。自分の頭で考える(ツッコミを入れる)ことが何より大切なのだ。著者は情熱的に説き続ける。情熱が行間から滲み出ている。「あたりまえを問いなおす」「強く深く考える」という僕のゼミのテーマと根底から触れ合っていて、非常に好感が持てた。

「数学ができると年収が高くなる」という有名な調査結果(西村和雄教授の研究グループ)に対して、著者は「別の因果の可能性」(p.85)を指摘しているが、僕の立場も著者とほぼ同じである。実はこの問題、5期ゼミ生がまだ2回生の時に討論テーマとしてとりあげたのだけれど、残念ながら著者のように考えることができたゼミ生は一人もいなかった。やはり「相関と因果」の違いを前もって教えておくべきだった。

随所に挿入されているいしいひさいちのマンガの知的レベルの高さに改めて感服する。

評価:★★★★★