70ページに満たないブックレットなので、一、二時間もあれば読み終えることができる。森岡さんの新著『働きすぎの時代』の書評を準備中なので、その関係で手に取った。
森岡さんは現代資本主義と日本の企業システムに関する理論的な著作・翻訳を数多くものしておられるが、本書はブックレットということもあり、著者の実践家(株主オンブズマン代表)としての問題意識が前面に押し出されている。
このブックレットは、ここ数年に発覚した主な粉飾決算事件から教訓を引き出し、粉飾の防止に少しでも寄与することを意図している。(p.4)
構成は「はじめに」「バブル不況と不良債権」「日本的企業経営」「粉飾決算のケーススタディ」「金融粉飾列島日本」「監査法人に対する株主訴訟」「おわりに」。特に印象深かったのは次の一節。
日住金、山一、長銀、日債銀など、金融機関で粉飾決算事件が続発してきたのは、金融機関がバブルの牽引車として財テクや不動産融資にのめり込んだからである。しかし、金融機関の暴走にブレーキをかけるタイミングを失し、バブル後遺症をいたずらに大きくしたという点では、政府・大蔵省が最大の責任を負っている。粉飾決算が金融機関にとくに集中的にあらわれている理由は、護送船団方式とよばれる大蔵省の金融行政を抜きには説明できない。監査論を専門にしている関西大学商学部の松本祥尚助教授のいうところでは、銀行は大蔵省に財務諸表を出しているので、銀行局の役人の了解を取っていることを盾に、会計士のいうことを無視することもできる。監査法人あるいは公認会計士にしてみれば、大蔵省がよしとしている以上、監査の責任を問われるはずはなく、あえて異をとなえる必要もなかった。まともにやろうとすれば現在の低い監査料ではとても引き合わない。しかし、横並びや馴れ合いが体質化した大蔵省の規制業界であるために、低い監査料でも適当に済ませることができるというわけである。(p.50)
粉飾決算の頻発は、企業経営者のモラルの欠如の問題と言うよりも、官民一体の護送船団方式に代表される日本企業システムそれ自体の問題である。したがって、企業や監査法人の自浄努力、大蔵省の監督能力の強化を期待することには限界があり、最後は裁判という方法に訴えるしかない(p.57)、というのが筆者の立場である。
- 作者: 森岡孝二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/01/20
- メディア: 単行本
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