乱読ノート ~出町柳から哲学の道へ~

イギリス思想史を研究する大学教員の読書ノートです。もともとは自分自身のための備忘録として設置したものですが、「隠れ名著、忘れられた名著に関する情報を学生の皆さんに発信したい」というささやかな期待もこめられています。

2007-01-01から1年間の記事一覧

香西秀信『論争と「詭弁」』

修辞学(レトリック)とは、本質的には、黒を白と言いくるめてしまうような危険で狡猾な技術である。本書は修辞学のそのような邪悪な本性を物語る4つのエピソードを紹介した「闇の修辞学史」(p.14)である。これまで修辞学関係の本はほとんど読んだことがない。…

城山三郎『官僚たちの夏』

組織の中の人間の生々しい姿を描き続けた経済小説の第一人者城山三郎氏が去る3月22日に亡くなられた。79歳。東京商大(現一橋大)卒業後、愛知学芸大(現愛知教育大)の教員(景気論・経済原論担当)を経て、小説家へと転身した。かつて記したことがあるのだが*1…

古沢由紀子『大学サバイバル』

出版社は異なるが、すでに採り上げた『潰れる大学、潰れない大学』*1の姉妹書と言ってよいだろう。公刊時期はわずか5ヶ月違い(本書のほうが早い)で、共著と単著の違いこそあれ、同じ読売新聞記者の筆によるものだ。同一新聞で取材時期も近いこともあり、内容…

間宮陽介『丸山真男』

『増補 ケインズとハイエク―“自由”の変容 (ちくま学芸文庫)』を読み終わり、「そのついでに」とばかりに軽い気持ちで読み始めたのだが、そのあまりに浩瀚で刺激的な内容に圧倒された。丸山本来の問題意識をテキストの丹念な読解を通じて再構成し(pp.78-80)、…

読売新聞大阪本社編『潰れる大学、潰れない大学』

以前に潮木守一『世界の大学危機―新しい大学像を求めて (中公新書)』をこの「乱読ノート」でとりあげたことがあるが*1、本書は日本の大学危機の現状を、各大学の様々な改革への取り組みを紹介しつつ、レポートしたものである。読売新聞の連載記事が元になっ…

間宮陽介『増補 ケインズとハイエク』

本書はもともと中公新書の一冊として1989年に公刊されたもので、知る人ぞ知る名著でありながら、長らく絶版状態が続いていた。このたび増補改訂され、ちくま学芸文庫の一冊として復刊された。ケインズとハイエクの関係については、「実践家vs理論家」あるい…

樋口陽一『憲法と国家』

著者は比較憲法学の第一人者。「著者としては、この本に、アクチュアルな同時代の問題に即した、ひとつの「比較憲法入門」としての役割をも託したつもりである」(p.206)とのこと。1999年に刊行された本書だが、8年たった今ごろに手に取った理由は、つい先日…

山田昭男『楽して、儲ける!』

岐阜県の中堅電設資材メーカー「未来工業」は、僕がここ数年いちばん注目している企業の一つだ。この会社は日本一労働時間が短い会社として知られている。残業ゼロ。完全週休二日はもちろんとして、それに加えて年末年始休暇は19日間、GWは10日間、夏期休暇…

筑紫哲也『スローライフ』

5期ゼミのテキスト。ゼミ生が自分で選んだ。著者は言わずもがなの超有名ジャーナリスト。生きることの真の意味を「スロー」という言葉に托しつつ、訪れた世界各地、日本各地で見つけた「スローライフ(ゆったりとした生)」をとらわれない自由な筆致で紹介して…

橘木俊詔『格差社会』

格差問題の第一人者による啓蒙的な入門書。4期ゼミと森岡ゼミとの対抗ゼミ(2006年12月、共通テーマ「格差社会」)の準備の過程で読んだ。昨年11月に一度通読しているのだが、その時は多忙にかまけて「乱読ノート」へのアップを怠った。このたび改めて通読し本…

東谷暁『金より大事なものがある』

著者は保守系の経済ジャーナリスト。本書は金融規制緩和の負の側面を豊富な具体的を用いて徹底的に暴き出したルポである。小泉政権下で強力に推進された金融規制緩和によって、すべてを株価だけで評価するアメリカ型ファンド資本主義の病理が日本にも蔓延し…

伊藤元重『成熟市場の成功法則』

伊藤元重・東京大学教授と好調企業のトップ12人との対談集。月刊誌『Voice』(2004年6月〜2005年6月)の連載対談を一書にまとめたものである。伊藤氏は対談の名手である。対談相手が示してくれる現場の具体的なエピソードを瞬時に経済の基本原理と結び付けるそ…

荒瀬克己『奇跡と呼ばれた学校』

著者は京都市立堀川高等学校の校長。2001年に6人だった国公立大学現役合格者を2005年には30倍の180人に伸ばし、「堀川の奇跡」と呼ばれる公立高校改革を成功させた。その具体的実践を詳しく紹介している。本書は様々な読み方が可能だろうが、一大学教員であ…

只腰親和『「天文学史」とアダム・スミスの道徳哲学』

本書は「経済学方法論フォーラム」の共同メンバーでもある只腰さんが12年前に公刊されたスミス研究書である。スミスの道徳哲学(社会科学)研究の方法上の特質を、彼の学問論・知識論に着目しつつ――とりわけニュートンの天文学とロックの認識論との関連を重視…

清水克彦『人生、勝負は40歳から!』

40歳まで残り1年半。「40代の挑戦が後半の人生を約束する」という帯のコピーに惹かれて衝動買いしてしまった。著者は文化放送プロデューサー。これまでの自分を「少しだけ」見直すためのヒントを、著者自身の体験談を交えながら伝授しようとする、いわゆる「…

佐々木憲介『経済学方法論の形成』

本書はイギリス古典派経済学の方法論的特徴を、6人の古典派経済学者――スミス、リカードウ、マルサス、シーニア、ミル、ケアンズ――の議論を精査することによって、明らかにしようとしている。著者はイギリス古典派経済学の方法論的立場の核心を「経済理論は観…

中澤英彦『はじめてのロシア語』

来年度、諸般の事情でロシア語の外書講読を担当することになった。学部学生時代、第二外国語として選択したロシア語は、いちばん力を注いだ科目の一つだったが、イギリス経済思想を自分の専門領域として選んだため、大学院進学後はすっかり縁遠くなってしま…